Internet Explorer 9 が Windows XP で利用できないことはすでに Microsoft から発表されていますが、それによってどういう影響があるのかを考えてみたいと思います。
まず、Windows XP に非対応ということで当然 XP では IE9 を使うことができません。だからおそらく予想通り IE 全体のシェアは低下するでしょう。しかし、では一体何のために Microsoft は Vista 以降の OS でしか使えないハードウェアアクセラレーションを使ってまで IE を高速化したのか。それにはおそらく最近の Web ブラウザ高速化競争が影響しているのではないかと考えることができます。
IE9 が Direct2D, DirectWrite を使って グラフィックの描画を高速化したことで、IE9 と他の Web ブラウザの間には圧倒的な速度差が生まれます。当然、他の Web ブラウザ開発陣営は黙って見ているはずがありません。自社の Web ブラウザでも同じ方法を使い IE9 と同等、あるいはそれ以上にパフォーマンスを向上させてくるでしょう。まさしく、それこそが Microsoft の狙いなのではないでしょうか。IE の開発状況をこれだけ詳しく公開するのもライバルたちに GPU レンダリング対応を促すためだと考えれば納得がいきます。
Windows XP には DirectX11 (Direct2D, DirectWrite) は提供されません。XP には OS レベルで GPU の描画支援を受けられる機能が実装されていません。つまり他の Web ブラウザも DirectX を使って高速化しようと思うのなら Vista 以降の Windows に対応しなければならないのです。独自機能や他の方法(OpenGL など)によって XP に GPU 描画機能を実装することは可能でしょうが開発コストや時間がかかるでしょうから IE との速度差はどんどん大きくなっていくかもしれません。それにXP世代の一般に普及しているタイプのPCはOS自体があまりグラフィック性能を必要としなかったということもあり、GPU対応にしたところで大したパフォーマンスが出ないこともあり得ます。GPU 対応を諦めるならそれはそれで IE の一人勝ちになりますし、対応するならするで XP を搭載している多くのマシンのグラフィック性能が低いことを考えれば XP を切り捨てなければならなくなります。
Web ブラウザの高速化競争はこれからも続いていくと思います。それに伴って GPU の性能も重要になってきます。HTML5 が普及し出し、より高画質な動画やアニメーションが増えていけば古い PC を使っている人は買い替えを迫られるかもしれません。すると Windows のバージョン別シェアはどのようになるでしょうか?
Web ブラウザの高速化競争は意外なところで Microsoft に味方をするかもしれませんね。
以上を簡単にまとめると
- IE9 が普及するならそれでよし
- IE9 が普及しなかったとしても Firefox などのライバルも GPU 対応になる可能性が高く、XP 時代の古いマシンでは実行できないためユーザーは PC の買い替えを迫られることになる。よって Windows 7 搭載 PC が普及することになる(可能性がある)
- ライバルが Direct2D, DirectWrite を採用すれば DirectX の技術的勝利となる
ちなみに Direct2D や DirectWrite は GPU が DirectX10 に対応していないとハードウェアアクセラレーションが有効になりません。DirectX9 世代の GPU ではソフトウェアエミュレーションになってしまい、パフォーマンスが大きく低下してしまいます。